キングオブコント

『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)や『R-1グランプリ』(フジテレビ系)と並んで、決勝戦がテレビで放映される笑いの大会といえば『キングオブコント』(TBS系)である。

今回はそのキングオブコントについて分析していこうと思うのだが、前回「雨上がり決死隊さんの解散」についてかなりこってりと書いてしまった(『宮迫博之に元芸人が感じた違和感…雨上がり解散番組に臨んだ二人の差』)。

ラーメンでいうところの味濃いめ・脂多め・麺固めだ。連続でそんなこってりしたラーメンを食べるとどれだけ美味しかったとしてもさすがに胃もたれしてしまう。どうしてもラーメンが食べたいのならば、佐野ラーメン・喜多方ラーメン・東十条にある、めん処 ほん田のようなあっさり味の類をおすすめする。

ということで今回はキングオブコントについて、あっさりすっきり元芸人としての視点で分析をしていこう。

キングオブコントは今年、スタートして14年目にしてルールが改定された。

これまでは「プロアマ問わず、所属事務所、芸歴、グループ結成年数の制限なし!」で、条件はたった2つ。2人以上のグループであること。即席ユニットはアマチュアのみ参加可能。この2つ以外はすべて不問という、来るもの拒まずのなんとも大盤振る舞いな大会だ。

今回の「キングオブコント2021」ではこれに追加し、プロ同士の即席ユニットも出場可能となったのだ。「待ってました!」と言わんばかりに、売れないプロのピン芸人同士が即席でユニットを組んだり、テレビに出る為にコンビ同士がユニットを組んでカルテットやクインテットになったりたりと、まるでお笑いバトルロイヤル。「面白ければ何でもアリ!」という感じが凄まじい。

もちろん売れていないコンビやピン芸人だけがユニットを組んだわけではない。なんたって何でもアリのバーリトゥード。売れている芸人同士がユニットを組んで参加したのだ。

有名どころでいうと、元ラーメンズの片桐仁さんと青木さやかで結成した「母と母」、M-1グランプリで一躍売れっ子芸人の仲間入りを果たした「おいでやすこが」、そして最も物議を醸しだしているのはチ、ョコレートプラネットとシソンヌの同期ユニット「チョコンヌ」だ。

このチョコンヌに関しては、参加を表明した時にすでに賛否両論、なんだったら否の方が多かったのではないだろうか?

非難する側の意見の大半は「売れているのだから出る必要がない」とか「ほかの若手のチャンスをつぶしてかわいそう」など。これが普通の健全な格式の高い厳格などこぞの大会だったらそういう気持ちもわかる。

だが、この大会は何でもアリのキングオブコント。というよりお笑い自体が元来、面白ければなんでもアリという世界なのを忘れているのではないか。

さらにいうとこのキングオブコントという大会は元々、若手芸人にチャンスなどない。何故ならこの大会が発足した時の意味合いが、ほかの大規模なお笑いコンテストと違うからだ。

例えばM-1は漫才で一番面白い10年以内の若手を発掘しようという目的。R-1はとにかく一人芸で面白い人を見つけようという目的。R-1のRは落語からとっている。落語家、モノマネ芸人、ひとりコント、ある意味なんでもありの大会だったが、2020年から10年以内というルールが追加されてしまった。

話を戻す。ではキングオブコントが作られた目的はなんだったのか。

表向きにはコントで一番面白い芸人は誰か!?というコンセプトだったと思うが、たぶん本当の狙いは違う。

僕が思うに、10年以上の芸歴がありM-1に出られず、R-1に参加しても予選で敗退し、一人でネタをやる才能がなく、夢も希望も失った芸人へのクモの糸だったのだ。

皆さんは覚えているだろうか、08年に行われたキングオブコントの初代チャンピオンを。第一回大会は今考えると異様な大会で、審査するのは準決勝で敗退した100組の芸人。AグループとBグループの勝者を決めてその勝者同士で優勝を争うといったもの。

ちなみに「バナナマン」さんと「バッファロー吾郎」さんで初代チャンピオンの座を争い、見事チャンピオンの座を勝ち取ったのは「バッファロー吾郎」だった。芸歴19年目で掴んだチャンピオンの称号。なお、バナナマンに関しても、芸歴14年目だった。

それを踏まえて、この大会のどこに若手の希望があるというのだ。

決勝戦だけ見てもお分かりいただけるだろう。芸歴の浅い若手には元々チャンスなど無いのだ。芸歴10年以上の売れっ子が敵なのだから。

さらに言うと、この大会には一夜にして売れっ子になり、担当マネージャーの電話が鳴りやまないという「芸人ドリーム」は存在しない!

運が良ければ半年くらいは忙しいかもしれないが、それがずっと続くという事はほぼない。キングオブコントで優勝し売れっ子になり、今でもテレビで活躍しているのはバイキングとハナコぐらいではないだろうか。第2回チャンピオンの東京03にしてもキングオブコントで売れっ子になったというよりは、すでに『エンタの神様』(日本テレビ)で相当な人気があったしその後長らく舞台での活躍が続いた結果の今だろう。ほかのグループもすでに別の番組でメジャーになっていたりと、キングオブコントの「芸人ドリーム」で売れたというわけではない。

要は、M-1以外の大会には「芸人ドリーム」はほぼ存在しないといっても過言ではない。

所属事務所であったり、ビジュアルであったり、その時期に出ている番組であったり、何かしら別の要因があって売れる。本当の意味での「芸人ドリーム」はM-1にしかないのだ。

M-1に関しては「おいでやすこが」のように1位でなくても売れっ子になることが可能だ。過去にもオードリーやナイツなど、優勝はしていないが売れた芸人が多数いる。

これは余談だが、先述した第1回キングオブコントの準決勝で敗退した芸人100人の中に僕も入っていた。

どことなく客席は知った顔が多いので、お祭りのようにみんな楽しみながら審査をしていたが、僕の隣にいた、ある関西弁の芸人のせいでとても気分が悪くなったのを覚えている。

名前を出すのは控えるが、審査中自分がお世話になっている大阪の芸人に対しては「めっちゃおもろい」「さすがやわ~」など褒めちぎり、関東の芸人が出てくると、ネタ中にも関わらず、「何がおもろいねん」「この笑いわからんわ」などと周りの芸人にわざと聞こえる声で言っていた。

その芸人の後輩たちは愛想笑いをし、なんとなくどちらに点数を入れるかを強制されていた感じもあった。僕は同じ事務所でも後輩でも無いので、逆にその芸人が「何がおもろいねん」と思うほうに点数を入れた。後で調べてわかったことだが、僕らと同期の芸人だった。同じ芸歴でこんな事をするのかと、がっかりした記憶がある。

話がそれてしまったが、つまりキングオブコントとは次の売れっ子になる為に、0.1%にも満たない可能性にかけるベテランたちの戦いなのだ。そんじょそこらの若手では到底勝てるわけはなく、さらには人気者のユニットであってもそう簡単に優勝できるものではない!

よって「若手のチャンスをつぶす」なんて心配ご無用なのだ。

そして「すでに売れているから出る必要はない」と非難している一般の人たちに問いたい。何の為にプロ同士のユニットを解禁したと思っているのですか?大会側としてはプロ同士のユニットを承認した段階で、今大会限りの売れっ子ユニットが参加してくることを予想していたはずだ。むしろその効果を狙って解禁したともとれる。

今回は残念ながら決勝に出られなかったが、もし「チョコンヌ」が優勝でもしていたら、次の大会にはさらに面白いユニットが出てきたかもしれない。

ちなみに「チョコンヌ」に対して非難している人たちの大半は「チョコレートプラネット」に対してだと思うが、キングオブコントでいうと、2014年に優勝している「シソンヌ」のほうが格上であり、脅威なのはシソンヌが作る世界観だ。

逆に一度も優勝していないチョコプラが、シソンヌという最強のコント師を仲間に引き入れ大会に参加してきたのだから、非難はせずにどんな世界を見せてくれるのか楽しむべきだった。新しい笑いが見られるかもしれないし、それを阻止すべく、ほかのベテランコント師達が意地を見せてくれるかもしれない。

今までのキングオブコントと比べてもかなり毛色の違う、見ごたえある決勝戦になったであろう。

最後に、コントも漫才もやり、オンエアバトルで最多勝利数を誇った元芸人からのアドバイスで締めくくろう。

華やかなテレビの世界を夢見て日々努力している若手芸人やアマチュアの諸君。

もし今コントを軸に活動しているなら、すぐにコントを辞めなさい。パイプ椅子の代わりにセンターマイクを置き、漫才をやるべし。話術を磨いて、人の耳と心を惹きつけられる芸を学ぶことこそ、芸人として売れる近道だ。

漫才で売れたら何にだって通用する。MCも出来るし、ガヤも出来る。コントがやりたければ、後から好きなだけやれる。

誰かになりきるコントよりも、自分自身の素材を磨かなければ、今のお笑い界の荒波を乗りこなすことは出来ない。頑張れ!

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