クロ現「コロナ禍の路地裏に立つ女性たち」生活保護を拒む女性、路地裏を“居場所”とする女性
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『クローズアップ現代+』(NHK)

10月27日放送の『クローズアップ現代+』(NHK)が、視聴者に大きな衝撃を与えている。この日のテーマは、題して「コロナ禍の路地裏に立つ女性たち “助けて”と言えない理由」であった。

「生活保護を受ければ……」の助言では解決しない現実

今回、カメラが捉えたのは新宿歌舞伎町の路地裏で声をかけられる女性たちだ。そして、その周りには中高年の男性が集まっている。端的に言うと、この日のクロ現プラスは“立ちんぼ”の特集だった。1日前に同番組はネットコンテンツへ大金をつぎ込む“投げ銭”を特集しており、そこからの落差がすごい。でも、同じ日本の話だ。

スレスレなのは、パッと見たらこの路地がどこなのかすぐにわかってしまう点。翌日からこの界隈が賑わってしまわないか心配になる。1人の女性が番組の取材に応えた。

「非常識とか言われるけど、違法なことを犯しても立たざるを得ない」

また、ある1人は「この路地に10年立っている」と告白した。彼女は4人の子どもを育て、臨月の時期も路地裏に立っていたという。

真っ先によぎるのは、「生活保護を利用しないのか?」という疑問。女性ならシェルターに入ることも可能なはず。こんなところに立たずとも、生活していく方法は他にあるのだ。なのに、路地裏を選んだ。

まず、根本的な問題として、彼女たちがそれらの情報へたどり着かない現実がある。そういう制度の存在を知らないし、誰からも教えてもらえない。もう1つ、似た境遇の女性が多い歌舞伎町へ来ることでホッとする事実もあるはず。他所では特異とされた身の上も、ここでは周囲から共感を得られる。夫の暴力から逃れるため、家に子どもを置いたまま歌舞伎町へたどり着いたまゆさん(仮名)は、歌舞伎町が自分にとって初めての居場所だと感じている。

「普通に家族が仲良ければいいよ。仲良ければ仕事のことで不満ぶちまけたりできるけどさ、私はないのよ(苦笑)。こういう友だちがいるところで同じ仕事をして、『ああ、今日はダメだ』『またお茶引き(お客さんゼロ)だよ』って話していると、私にとってはストレスが緩和されるの。居場所はここにしかないの」(まゆさん)

まゆさんはもとより、気になるのは置いていかれた子どもの現状だ。それは彼女も気にしているという。

「会えないよね、こんな仕事をしていたら。まともな仕事に就いてるなら顔を見せに行けるけど、こんなことをして稼いでいるなんて言えないし」(まゆさん)

実は、幼少期のまゆさんも両親と離れていた。育児ができない両親だったため、3歳から児童養護施設で育っていたのだ。子育てできない親を持ち、自らも子どもを置き去りにした。これを“負の連鎖”と言わずして何と言う。子は親を選べない。あまり使いたくない言葉だが、親ガチャがうまくいかなかった事例と言えるのかもしれない。

「相談所みたいなところに相談するのは信用できない。『そうなんですか』『大変ですね』と言っても、顔がそう思っていない。行きたくない。絶対行かない。話し損でしかない」(まゆさん)

「立ちんぼをするくらいなら生活保護を受ければ……」と思いがちだが、現実はもっと複雑だ。信頼できる人に出会えず、いつも孤独だったまゆさん。親も、施設で出会った人たちも仲間ではなかった。今まで、ずっと誰も信用できなかった。問題はもっと深いところにあるのだ。

路地裏に立つ女性たちの支援に取り組むのは、女性の就労支援や生活保護の申請を手助けするNPO法人「レスキュー・ハブ」代表の坂本新さん。彼は日々、夜の見回りをしながら積極的に女性たちに声をかけている。こうした作業を積み重ね、信頼関係を築くのがねらいだ。逆境にいる人ほど、誰を信用していいかわからない。心を開かないと人は相談しない。事実、まゆさんは「相談所は話し損でしかない」と口にしていた。

成果はある。10年以上路上に立ち続けた40代の女性・幸恵さん(仮名)は30代まで正社員として働いていたが、人間関係でうつ病を発症して退職。その後、就職活動をしても面接で不採用が続き、歌舞伎町へたどり着いたという。

「生活保護は受けてなかったですね。受けたくなかったんですよ。(正社員として働いていた)10年間という実績があったので」(幸恵さん)

彼女にとっては、生活保護を受けるより体を売ってでも自力で生活するほうがプライドが満たされた。「ナマポ」と呼び、生活保護のイメージを悪くした結果がこれだ。自己責任を唱え、行き着いた先である。しかし、今の境遇から抜け出すため、坂本さんの助言で幸恵さんは生活保護を申請した。現在、彼女は新しい仕事を探しているという。

「坂本さんと知り合ってなかったら、下手したら新宿で野垂れ死んでいたかもしれない」(幸恵さん)

しかし2日後、歌舞伎町の路地裏には幸恵さんの姿があった。そう簡単に長い習慣からは抜け出せない。1回の行為で1日分を稼ぐ仕事を知ってしまった感覚の麻痺もあるかもしれない。出所したのに衣食住が揃う刑務所へまた戻りたくなる心境と似ているだろうか。

「体を売らなくていい仕事で生活を立て直したいという気持ちは、間違いなく持っていると思うんですね。ただ、長く街娼として生きてきた人が気持ち一つで新しい仕事を見つけられるかというと、それはすごく難しいと思います。やっぱり探しに行って声をかけ、信頼関係を作った上でできることをしていく」(坂本さん)

コロナ禍の去年から10~20代の若い女性を路地裏で多く見かけるようになった。地方の食品工場で非正規労働者として雇われていた千夏さん(仮名)は、コロナでシフトを大幅に減らされてしまった。現在、彼女が路地裏に立って手にするお金は月10万円で、そのうちの3万円は親への仕送りにあてているという。

「(コロナ前は)月に8万くらいもらってたんですけど、それが2万くらいに減っちゃってるんで何カ月か(他の仕事を)ずっと探してて、コロナでやっぱり見つからなくて」(千夏さん)

街娼までして得た月の稼ぎは10万円で、その内の3万円は親へ仕送り。コロナ禍前でさえ、非正規雇用で月にたった8万円の収入だった。昨年、岡村隆史の「コロナで風俗に可愛い子が降りてくるはず」という趣旨の女性蔑視発言が話題になったが、もはやその次元の話ではない。とうの昔に、日本全体が貧困で苦しんでいた。

取材VTRが終わると、スタジオにいる論客が持論を唱え始めた。女性や子どもの貧困を研究する立教大学の湯澤直美教授が口を開く。

「今の日本の社会はセーフティネットの底の底も抜けている状況だと思いますが、さらに女性を追い込んでいる現実がある。いまだに女性の差別とかジェンダー格差が解消されていない」
「女性を貶めていく仕組みがすでに社会に埋め込まれているのだと思いました。女性の性を買うとか搾取するとか、女性への暴力とか、そういう中の究極的な状況を見たと思いました」

路地裏に立つ女性を特集した今回であったが、この現実を性差別に結びつけるのは浅はかという気がした。先決なのは、貧困問題。底辺を這いずるのは女性も男性も同じである。体を売る女性をどう救えるか話し合うべきなのに、ジェンダー論に結びつける切り口からは逆に女性差別を利用した印象を受けた。大切なのは彼女たち一人ひとりを理解することのはずだ。

番組は女性の相談窓口にアクセスできるQRコードを紹介したが、これも危機感が足りなかった。彼女たちの困窮度を理解していない。全員がスマホを持っていると限らないし、素直に電話番号を表示するべきだった。あと、路上に立つ女性たちはNHKを見ていない気がするのも悲しい。そもそも、受信料も払えていないだろう。

深刻なテーマだっただけに、もうあと2歩ほど突っ込んだ内容であってほしかった。「こんな現実がある」と問題意識を掲げ、解決を探らないまま自己満足で終わった感があったのだ。「生きていくのは大変」と視聴者に思わせ、その先に進む展開は果たしてあるのか? この日、クロ現プラスが終わり、その次に始まった番組が政見放送だったのも据わりが悪い。冗談にしか思えなかったのだ。

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