7月21日放送『あちこちオードリー』(テレビ東京系)に平成ノブシコブシの2人と、みちょぱこと池田美憂がゲスト出演した。両者ともにこの番組へは2度目の登場だ。
前回(2019年9月23日)出演時、「天下を獲りたい」という野望を口にしていた吉村。彼は事あるごとに「天下」の2文字を口にする。しかし、令和の芸能界における天下とは何か? が、いまいちよくわからない。MC席に立つタレント以上にパネラー席で気の利いた振る舞いをし、番組を潤滑にする存在のほうが注目され、市井の話題に上ることもザラな現代である。さらに、「昨日はMCだった芸人が今日はひな壇にいる」なんて現象も珍しくないボーダーレスの時代。そこに、天下を論じるほどの厳然たる格が存在するのかは疑問だ。
若林 「どうなったら天下なの?」
吉村 「今で言うと冠番組でキャスティング権もあったりとか」
みちょぱ 「今いるの、そんな人?」
吉村 「いや、(スタッフが)察して仲良い人を呼んでみたりとか」
吉村の定義を真に受けると、冠番組の『オドぜひ』(日本テレビ系)で、仲が良いという理由だけでTAIGAの特集を3週にわたり組んだオードリーは完全に天下人である。吉村にとっての天下の定義は以下らしい。
若林 「でも、MC番組やってるよね? 特番とか」
吉村 「いやいや、やってないのよ。誰か真ん中にしての進行というか。『吉村崇の~』ではないのね。千鳥さんがいて、その横にいるとか」
若林 「『吉村崇の~』って言ったら、徳井さんすごい笑ってますけど」
徳井 「いや、まず俺がいねえなっていう(笑)」
天下獲りを願う吉村をゴリゴリえぐるのは、長年苦楽を共にした相方の徳井健太だ。
「弱点は本当そこよ。当たり前のように『吉村崇の~』って言ってる人間性が視聴者にも伝わってるのよ」(徳井)
中堅芸人レースで遅れをとる吉村
「天下」の定義は各々違うが、少なくとも群雄割拠の中堅芸人レースから頭一つ抜けた存在がいる。
若林 「今、天下獲りのライバルはいるの?」
吉村 「色々いますよ。2年前ですと“傭兵”でよく呼ばれていたのは吉村、(バイきんぐ)小峠さん、(ハライチ)澤部、麒麟・川島さんだったんです。で、川島さんがスッと行ったわけです。神様のドラフトがかかって(笑)」
川島がMCへ転生した要因は、傭兵としていい仕事を重ねてきたからだ。では、吉村の実績はどうか? 中堅芸人レースの現在の戦況を彼はこう分析する。
「(2年前の状況から)パンサーの向井とかも入ってきてきちゃったわけですね。かまいたちが入ってきたり。4人だったものがちょっと増えてきちゃったんで、そこら辺とバチバチやってますね。で、細かく言えば仕事の内容は、僕は小峠さんとほぼ一緒です」(吉村)
酷なことを言うと、客観視できていない気がする。小峠と吉村を並べると、かなり吉村が遅れをとっているように見える。かまいたちの需要や勢いとは比べるべくもない。澤部もなんだかんだ、『なりゆき街道旅』(フジテレビ系)など冠番組を手にした。
そんな中、吉村がライバルとして本命視したのは関ジャニ∞の村上信五だった。この自己分析を徳井は評価する。
「俺、それ聞いたとき、すごい見えてるなと思った。村上君はアイドルだし、お笑いをやってきたわけじゃないけど、バラエティ能力長けてるじゃん。で、MCをやったりするじゃん。で、ウチらのコンビはお笑いの大会も出れなかったし、一発芸があるわけでもないけどここまで来れて、それは傭兵として頑張ってきたから。バックボーンは似てると思うの」(徳井)
バックボーンは確かに似ている。だが、村上はフジテレビの東京2020オリンピックのメインキャスターであり、2019年『FNS27時間テレビ』(フジテレビ系)でMCを務めたタレントである。実績では吉村の遠く及ばない位置にいる。一方の吉村は、忌憚なく言えば勢いにブレーキがかかってきた。彼の現状を端的に表すのは、テレビ番組出演本数ランキングだ。2021年上半期はこんな順位だった。
1位:設楽統(バナナマン)
2位:博多大吉(博多華丸・大吉)
3位:小峠英二(バイきんぐ)
4位:フワちゃん
5位:池田美憂
6位:松尾駿(チョコレートプラネット)
7位:川島明(麒麟)
8位:若林正恭(オードリー)
春日俊彰(オードリー)
長田庄平(チョコレートプラネット)
自分が入っていないランキングを見た吉村は「例年だったら8位とかにつけてるのにしっかり凹んだ」とこぼした。では、昨年の吉村はどうだったのか? 2020年の順位は以下である。
1位:博多大吉(博多華丸・大吉)
2位:設楽統(バナナマン)
3位:立川志らく
4位:若林正恭(オードリー)
5位:林修
6位:春日俊彰(オードリー)
7位:博多華丸(博多華丸・大吉)
8位:粗品
9位:岡田圭右(ますだおかだ)
10位:加藤浩次(極楽とんぼ)
去年もランキング外なのだ。彼に最も勢いがあったのは、2016年に放送終了した『チューボーですよ!』(TBS系)でアシスタントを務めていた頃だと思う。
そんな吉村に対し、少なくとも同期の若林は一目置いているようだ。わかりやすい例で言うと、『嵐にしやがれ!』(日本テレビ系)の進行役として吉村は長年重用されたが、若林は準レギュラーの座を短期間で失った。吉村は稀に輝く。
徳井 「『はねるのトびら』(フジテレビ系)のゲストがウチらで、俺は全然ダメだったんだけど、吉村は噴火するように頑張ってて、あのときは凄かったね。虹色! 虹色吉村」
若林 「俺も“虹色吉村”結構見てんのよ。俺、『こんな虹色の人が同期でいるんだ』と思ってびっくりして。生放送で1分だけネタやるみたいなときに脇のシーツを畳むやつとか。こんなに自分の空気にするエネルギーというか。ライブとかでも吉村君が中心になるの」
共演の機会が多い若林と吉村。虹を見たからこそ、若林は吉村を頼りにする。そして、我々も“虹色吉村”を数度見たことがあるはずだ。『今田×東野のカリギュラ』(Amazon Prime Video)の「人間火の鳥コンテスト」における男気と、『水曜日のダウンタウン』(TBS系)の「生中継に現れたヤバめ素人のさばきで芸人の力量丸わかり説」で見せた腕は、彼の代表作である。
若林 「自分では心当たりあんの? 虹が出現する回数が減ったなっていうのは」
みちょぱ 「最近出たのはいつですか?」
吉村 「1番最近、虹が出たのはいつだろうなあ……」
まるで、気象観測番組のような会話。しかし、このやり取りで浮かび上がったのは吉村の人間味だ。
改めて、吉村が言うところの“傭兵”とは何なのかを確認したい。芸能界に君臨する大名らの番組に馳せ参じ、その場その場の空気を読み、求められた仕事を遂行する。これを繰り返すうちに、彼は“傭兵しぐさ”が体に染みついてしまった。
「私、催眠術かかってないのに手が開かなかったんですよ、1回。辛いもの食べて『甘いよ』って言われて辛かったんだから。ずーっと辛いまま『甘い』って言ったんだから、私は。こういう戦い方もあんのよ!」(吉村)
今回もそうだ。何回促されてもまともに素を出さず、組み合おうとしなかった吉村。しかし、徳井たちに詰められて最後の最後で遂に絞り出した。
「(本当の自分が)バレたくないというか。それすらも盛っちゃってるから、人格すらも。でも本当に向いてないと思う、お笑いに。おそらくね? これ以上聞かないで(笑)!」(吉村)
周囲に合わせ、空気に飲まれ、顔色を窺い続けるうちに自分の本音がわからなくなる。心の内を悟られたくないから、自分の話をしたがらない。彼が嫌々放った一瞬の本音に共感してしまった。ソツなく立ち回っているが、結局、1番人間臭かったのは吉村だったというオチだ。
川島、小峠、澤部といった器用な芸人と比べ、本来は生き様で見せるタイプの吉村は、実は最も傭兵に向いていない気がする。盛って繕うわりに人間味が露呈してしまうほころびこそ、彼の魅力だと思うのだ。生き様自体が本領なのに、本音を出す生き方を選べない。その皮肉こそ、吉村の人間味。しかし、それら全てを丸出しにすると傭兵として終わるというジレンマも孕んでいる。この救いのなさにさえ、共感してしまった。
ちなみに、『あちこちオードリー』次回のゲストは陣内智則と麒麟・川島の2人だ。なんて残酷な。
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