元芸人が見たアンジャッシュ渡部の復帰、社会から求められない復帰への期待
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アンジャッシュ・渡部建(写真/Getty Imagesより)

今月の5日、不倫騒動で活動を自粛していた「アンジャッシュ」の渡部建さんが、約1年7カ月ぶりの活動再開を正式発表、人力舎のHPには渡部さんのコメントが載せられていた。

要約すると「猛省する日々を過ごしている中、もう一度活動したいと思い、ゼロからまたやり直したいという考えに至った」とのこと。正直1年7カ月という日数は長いとも短いとも判断つけづらい長さなのだが、本人の立場になって考えてみると毎日反省し、テレビを見るたびに後悔していたら、とても長く感じただろう。

復帰の第一弾は2月15日に放送されたアンジャッシュさんの冠番組『白黒アンジャッシュ』(千葉テレビ放送)だった。これは所属事務所の人力舎が同番組での復帰を望んでおり、それを千葉テレビが承諾したというものらしい。この番組はアンジャッシュがメインMCを務めるお笑いトークバラエティ番組である。この番組を復帰の第一弾にしたのはどういう意図があるのだろうか。

その辺りも踏まえて、今回は渡部さんの復帰について、元芸人として思うことを書かせて頂く。

渡部さんの復帰に関してはこれが初めてのニュースではない。2020年の年末『ガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ)の大晦日特番で復帰するのではないかと一部で報じられたが、計画が流出し世間からバッシングの声が上がったのでお蔵入りになったと報道された。

このガキの使いでの復帰と白黒アンジャッシュでの復帰はかなり違う。もちろん番組の大きさも違うが、いちばん違うのは大勢の芸人がいる場所で復帰するのか、2人がメインのトーク番組で復帰するのかという点だ。

大勢の芸人がいる場所であれば、渡部さんが反省し、面白い事を言わないとしても、必ずその場にいる芸人の誰かが笑いを取ろうとするはずだ。そして渡部さんに対して批判めいた強めのツッコミを入れる事で、不倫騒動すら笑いに変換し、ウェルカムとまではいかないが、いじられるキャラとしての復帰が出来たのではないかと想像できる。

しかし白黒アンジャッシュの場合、どう復帰するのか想像がしづらい。

ゲストがいるのかいないのか、企画があるのかないのか、それによってだいぶ変わってくる。トークメインの構成だと、ただ反省しているだけの番組になりそうで想像するだけでも寒気がする。児島さんがふざけても痛々しく見えるし、渡部さんが笑いをとったとしても笑えない空気になりそうだ。

ではゲストがいた場合はどうだろうか?

この番組は人力舎が制作で入っているという事もあり、ゲストに人力舎の芸人が出るのが有力だ。しかしアンジャッシュは、人力舎の中では先輩の方にいる。後輩がひと組出てきて渡部さんをいじったとしても微妙な空気になる。となるとアンタッチャブルさんやおぎやはぎさん、東京03さん、ドランクドラゴンさんなど複数の後輩が出てきて、人力舎芸人総攻撃なら何とかなるかもしれない。

今なら竹内ズが出来て解散の話をしても面白そうだ。とにかくゲストを呼ぶなら複数か他事務所の先輩芸人というのがベターだ。

もうひとつ考えられるのは「反省してます系企画」だ。「何をされても怒らない」とか「いろんな所へ謝罪して回る」など。これだと企画力の勝負になるので、アンジャッシュさんへの負担はかなり軽減されるだろう。どちらにせよ自分たちの番組での復帰はプレッシャーにはなると思う。どうせプレッシャーを感じるなら、やはりアンジャッシュさん2人でトークして欲しい。最初は反省モードになるだろうが、最後には笑い起こすという、お笑い芸人のカッコよさが見てみたい。

ここからはアンジャッシュ渡部建という芸人について少し分析していこう。

不倫をしてしまった芸人、二股をかけてしまった芸人というのは他にもいるが、渡部さんほど嫌われてはいない。なぜ渡部さんはここまで世間に嫌われてしまったのか。

それは渡部建という芸人に対して強烈なイメージが無かったからだ。なので悪いイメージがついた場合、そのイメージしか残らない。それで渡部さんには悪いイメージがついてしまったのだ。

ここで勘違いしないでほしいのは、イメージが無いというのは決して悪いことではない。

僕からしてみたら渡部さんはツッコミ側の芸人の希望の星だった。

ボケに対して正しいツッコミが出来て、場の空気が読めて、見た目も良くて、ガヤも出来、MCもそつなくこなせる。そんな芸人はライブシーンに山ほどいる。ある程度芸人としての力をつけて、たまにテレビに出られたとしてもその先どうやったら売れるかわらかず辞めていった芸人は多い。

正直、渡部さんもそんな芸人の1人にすぎなかった。

しかしある時期からお笑いとは関係のないグルメなどの知識を身に着け、それをテレビで披露し始めたのだ。今でも覚えているが最初の頃は「芸人のクセにお笑い以外の事やってどうするの?」と言われていた。しかし何と言われようとそれを続け、武器とし、いつしか「芸能界のグルメ王」と呼ばれるほどになり、芸能人としての地位を手に入れたのだ。

渡部さんは芸人としての灰汁が無く、清潔感があり、吐く言葉には説得力があり、渡部さんが良いと言ったものは良いと感じる。そんな位置だったからこそ情報番組のMCも出来ていた。しかし強烈な灰汁がついてしまった今、復帰した後のポジションが難しい。

今まで築き上げたものが崩れ落ちたとはまさにこのことで、今の渡部さんは清潔感が無く、吐く言葉には説得力がなくなり、良いと言ったものに不信感を抱く。芸能界に復帰するというのはそんな状況を乗り越えるか、覆すか、利用するしかない。並大抵の事ではないのだ。

さらに言えば渡部さんを嫌う大半は女性であり、それが一番の問題ともいえる。

何故なら時代を作るのはいつも女性だからだ。女性は好きなものにお金を落とす。これは金に糸目をつけないということではなく、働いたお金を貯めて好きなものへ使うのが上手いという事だ。お笑いに関していえばファンの方のほとんどが女性であることは間違いない。さらに好きになったら周りがどうであろうと追いかけてくれる。そして人気があろうがなかろうが自分が好きならば追い続けてくれるのだ。そして流行に敏感だ。何か良いと聞くと好き嫌いにかかわらずとりあえず調べてみたり、試してみるというフットワークが男性より軽い。そして良いものだとわかると人に広めてくれる。

つまり男女問わず、エンタメ業界において女性ファンのいないタレントが成功を収める事は極めて難しく、ましてや嫌われるというのは致命傷なのだ。

女性に嫌われた理由として外せないのは奥さん「佐々木希」さんの存在だ。

交際が発覚した当時、渡部さんは芸能人としてある程度の地位にいたが、女優・モデルさんと芸人を比べるとやはり格差がある。自分も元芸人なので芸人を悪くいうつもりはないが、そこにはどうしても越えられない壁のような差があるのだ。

さらに年齢も16歳差。渡部さん側から見れば、誰もが羨む大金星を手に入れたといったところだ。しかも女優として脂がのっていた時期に結婚し、そして出産。そんな中の不倫騒動。被害者である佐々木さん自身もインスタグラムで謝罪し、夫が自粛期間に入ると、女優業やバラエティ番組に復帰した

このまま佐々木さんが働いて渡部さんが家事をするという道もあったのかもしれないが、それをしなかったのには僕らにはわからない何かしら本当の理由があるのだろう。

何もなければ世間的に思い出すことないだろうが、バッシング覚悟で仕事の再開を決意した渡部さん。

社会から求められていない復帰かもしれないが、多くの荒波を乗り越え、今までとはまた違った形の芸人「渡部建」を見せてほしい。

2月15日、ゼロからスタートするであろうアンジャッシュ第二章を楽しみにしている。

追記
このコラムが掲載される前に復帰第一弾の「白黒アンジャッシュ」が放送されたので、追記で感想を書かせていただく。

放送がスタートし、黒いスーツに黒いネクタイの児島さんが映し出され、その神妙な面持ちから復帰第一弾の白黒アンジャッシュは面白おかしいバラエティ番組では無いのだと容易に想像できた。番組冒頭、児島さんが1年8ヶ月前の出来事を謝罪し、さらに番組が継続できたことに対して各方面への感謝を述べる。

そして渡部さんを呼び込む前に「あいつからも挨拶があるので呼びたいと思います。今日別に俺あいつと会ってないので、なんか予定調和であいつをフォローするぞとかそういう気も一切ないんですけど……」と前置きした。

大事な復帰の回で会うこともなく、打ち合わせもなく番組がスタートするというのはどういう意図があったのだろうか。

「はいどうぞ」と少しぶっきらぼうに呼び込む児島さん。うつむき加減で登場してくるのではと予想していたが、意外にも胸を張って登場する渡部さん。「よろしくお願いします」と一礼。思ったより大きなその声はどこか自分の背中を押しているように聞こえた。

久しぶりに見た渡部さんは、目の光が無くなり、顔色も悪く、いささか老けていたように感じた。もちろん見ていなかった月日もあるのだが、それだけではないはずだ。普通の仕事もそうかもしれないが、芸人は1カ月休むと露骨に衰える。

もちろん芸的な部分もそうだが、顔つきや喋り方、姿勢に、その人から感じるオーラまでが変わってしまう。1年8カ月も休んでいたのだから別人と言っても過言ではない。さらに僕が元芸人だから感じたのかもしれないが声も衰えていたように思える。芸人は番組や舞台で大声には聞こえない微妙な大声を常に出している。そのせいで喉も強くなるのだが、日常生活では使うことのない音量なので休んでしまうと確実に喉が退化していく。わかりやすく番組後半では渡部さんの声は少しかすれていたように感じた。

テクニカル的なことはさておき、番組を通して印象的だったことが2つある。

ひとつ目は児島さんが渡部さんの復帰をお願いしたその理由だ。渡部さんの為でもアンジャッシュの為でもなく、「渡部さんの家族の為」だと。今のままでは家族がかわいそすぎる。渡部さんが一歩踏み出して変わっていく姿を見せられたら良いなというのが一番の理由らしい。いかにも初めて付き合った彼女と15年の恋愛の末結婚した児島さんらしい理由である。

ふたつ目は番組後半に児島さんが笑いを起こそうとしていたところだ。

渡部さんが休む前の児島さんはどことなく待ちの笑いというか受け手側だったような気がしていた。誰かにボケを振られるのを待っているようなイメージ。名前を間違えられるキレ芸はまさにそれである。

そんな受け身の児島さんが「渡部さんのメールの文章が丁寧すぎて困る」や「今までダサいとイジってきた舞台セットをイジれなくなった」など、何とか笑いを起こそうとしていた。どんな番組よりも笑いを起こすことが難しい状態の白黒アンジャッシュでスタッフを笑わせようとしていたのだ。先輩に対して偉そうに聞こえてしまうかもしれないが、これが1年8カ月アンジャッシュをひとりで守ってきた男の成長の証だろう。

さらにその笑いの先には渡部さん自身を反省の呪縛から解放しようとしている男気も感じた。渡部さんもそれを感じたのか、番組の最後の方でようやくアンジャッシュ渡部がうっすら顔をのぞかせた。

元の渡部さんのようになるのは相当難しいことだと思うが、家族の為にも、復帰を待ち続けた相方、児島さんの為にも、眉間にシワが寄らない笑顔の渡部さんが見れるよう願っている。30年目のアンジャッシュさんには期待大だ。

それにしても児島さんは男前だった。

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