「AGCを知ってるかい? AGCを知ってるかい?」
ボンゴのリズムに乗って、広瀬すずが微笑みながら踊る企業CM。テレビやYouTubeなどでご覧になったかたは多いだろう。
ネット上では、広瀬すずのニヤけっぷりに「なんだこれw」「ムカつく」などの批判的な声もあがる一方で、2021年3月前期のCM好感度ランキングで総合1位に輝くなど、シンプルながらもクセになる世界観に反響が大きいようだ。
AGCは、2018年7月に旭硝子からAGCに企業名を変更。高橋一生をキャラクターに起用し、「なんだしなんだし」と企業名認知をおこなってきたが、さらに広く若年層に印象づけるべく広瀬に白羽の矢が立ったかっこうだ。
とはいえ同社は実は、知る人ぞ知る大手企業。世界最大のガラスメーカーであり、三菱財閥の一員である。そんな企業がなぜ、広瀬すずを出演させたニヤケCMを放映しているのか。
「なんといっても『新卒採用のため』という部分が大きいです。やはり大手といえど地味な素材メーカーは人材確保が難しく、学生の親御さんからの信用も得づらい。CMの中身は『あ、広瀬すずが踊ってる会社ね』でしかないとしても、とにかく社名認知をさせることで、ほかの素材メーカーにも一歩先んじることができるんです。CMの出稿量が新卒採用のエントリー時期である3月頃に集中していることも、企業の狙いを裏付けています」(広告代理店関係者)
こののように、一般的にはあまり馴染みのない謎の地味大企業が、女優を使ったCMを放映するケースはほかにも見受けられる。
代表的なものは、DIC株式会社の吉岡里帆である。印刷インキ、顔料というこれまた渋い分野で、世界トップシェアのグローバルな化学メーカーであるDIC株式会社のCMでは、「DIC岡里帆」というリケジョに扮したキャラクター名で、熱く科学談義をおこなっている。
「吉岡とDIC株式会社の契約はすでに5年以上に渡っており、実は歴史が古い。当初はドラマもののCMでしたが、それでは他社に埋もれてしまうということから戦略的に現在のかたちに振り切ったと考えられます。近年は吉岡のグッズなどをSNSでプレゼントしたり、タレントパワーに依存したキャンペーンを展開しています」(CMディレクター)
広瀬や吉岡のような、地味大企業のCMのほか、近年は謎のベンチャー企業のケースも増加中。インターネットサービス企業のTISインテックグループのCMにて、川口春奈は古田新太とともに”魔神”としてサービスを紹介している。
ネット上では「気持ちが悪い」「なにを言いたいかわからない」などの声があがっているが、TISインテックグループ社内では「小学生が反応しなければ社会も反応しない」という姿勢で、あえてバカバカしい表現をおこなっているという。
「企業、代理店ともネガティブな声があがることは織り込み済み。玉石混交なインターネットサービス企業においてはとにかく目立てばなんでもいい。クリエイティブ・ディレクターは書籍も発売された有名コピーライターの野澤幸司、アートディレクターは博報堂の出世頭・小杉幸一と盤石の布陣のため、予算も莫大にあることは間違いない」(広告プランナー)
インパクト勝負のCMでも自然に演じきっているのは女優魂のなせる技か。
コメントする