
『データで語る棒人間』の「人の名前の流行は何に左右されるのか?」は、1世紀にわたる日本の命名データを分析し、名前のトレンドを左右する要因と変化のパターンを科学的に解明する企画である。
2025年と1925年の人気ランキングを比較すると、そこには社会の価値観や文化の移り変わりが鮮やかに映し出されている。
100年前の女性名トップ10には全て「子」が使われ、男性名には一郎や三郎といった出生順を示す名前が主流だった。
当時の合計特殊出生率は約4.5人。大家族が当たり前の時代には、次男や三男の存在を前提とした命名が自然だったのだ。
ところが少子化と個人主義化が進むにつれ、親たちは伝統的な名前を避け、新しい名前を選ぶ動機を強めていった。
さらに興味深いのは、ポップカルチャーの影響力である。過去5年間で最も多く使われた漢字「翔」は、大谷翔平の活躍が背景にあると推測される。
世界ではハリーポッターの影響で「ハリー」や「ルーナ」が急増した事例もある。ジェンダー観の変化も命名に反映され、男女両方のランキングに同じ読みが入るケースは20年前の1個から今年は8個へと増加している。
最も衝撃的なデータは流行サイクルの加速だ。
1925年にトップ10入りした名前が圏外になるまで40年以上かかったのに対し、2005年の人気名前は12年以内に全て消えている。
名前の多様化が進んだ結果、「陽翔」という名前には11種類もの読み方が存在し、「はると」という読みには39種類の漢字表記がある。
一方で研究者たちは、ユニークすぎる名前が子供の人生に不利に働く可能性も指摘している。
データが映し出すのは、親たちの愛情と社会の変化が交錯する、名付けという人生最初の選択の深さである。
時代がどれほど変わろうとも、子供自身が一生大切にできる名前を選ぶことの意味は変わらない。
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