
山田玲司の『【鬼滅の刃】かつてない大ヒットの理由は、20年以上この国を覆い尽くしていた闇を圧倒的な〇〇で救ったから』は、社会現象となった鬼滅の刃のヒット要因を文化的・心理的側面から徹底解析した。
単なる売上数字では語りきれない、この作品が人々の心をつかんだ本質的な理由が明かされる。
平成から令和にかけて日本を覆っていたのは、リベラリズムを否定し「結局金だろう」「自己責任だ」という冷徹な現実主義だった。
人道主義や優しさを「きれい事」として切り捨てる風潮が20年近く続く中、鬼滅の刃は真逆のメッセージを発信する。
主人公の炭治郎は何の見返りも求めず「みんなを助けよう」と行動し、圧倒的な善性で物語をけん引していく。
「仲間を助ける」という超シンプルな価値観が、疲弊した現代人の心に懐かしさと安らぎをもたらした。
作中で繰り返される「よく頑張った」「つらかったね」という言葉は、真面目に生きてきたのに報われない人々への優しいカウンセリングとして機能している。
山田玲司が指摘するのは、作品に込められた「圧倒的な母性」の存在だ。
女性作家である吾峠呼世晴の感性が生み出す「褒めて育てる」構造は、登場人物たちを細かく肯定し続ける。
特に印象的なのは、キャラクターが魂の叫びを大声で泣きながら吐露するシーンの多さ。
「なんでこんなつらいんだ」「なんで悲しいことばかり起こるんだ」という慟哭は、真面目に生きてきた視聴者の代弁となり、プライマルスクリーム療法のような効果を発揮する。
炭治郎が代わりに泣いてくれることで、観客は自分の中にたまった感情を解放できる。
この「カウンセリングアニメ」としての機能が、何度でも見たくなる中毒性を生んでいる。現代日本人が求めていたのは、優しく包み込んでくれる母性的な存在だったのかもしれない。
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